消滅防げ!本屋の逆襲「出会い」と「仕組み」で挑む
次世代の生存戦略

「本屋は儲からない」ー電子書籍やネット書店の台頭に書店界は頭を悩ませてきた。全国で書店が減り続ける中、生き残りを模索する業界の「現在地」を取材した。オンラインでの本の出会いを提供する書店や店主の個性で人気を集める書店をはじめ、「読書経験」を売る新たなビジネスモデルや本屋開業のインフラ構築など、取り組みは多岐にわたる。しかし、規模も手法も異なるこれらの事例に共通するのは、本と人との接点を残そうとする意志だ。それぞれの生存戦略から、次世代の書店のあり方を読み解く。

オンライン書店で「出会いに物語を」 

カウンター奥に本棚があり、お客さんから直接手の届かない場所になっている(2025年11月7日午後1時40分、チャイと選書 Chapters)池内優葉撮影

「人も本も、出会いにもっと物語があっていいと思うんです」
そう語るのは書店「Chapters(チャプターズ)」を経営する森本萌乃さん(35)だ。市ヶ谷にある実店舗「チャイと選書 Chapters」には落ち着いたピンクベージュの本棚に60冊ほどが並ぶ。「今、心のお天気は?」と書かれたミラーを囲むその本棚にあるのは、これまでにChaptersが取り扱ってきた本だ。同店が売るのは本だけではない。訪れた人と話を重ねながら、その人に合いそうな本を提案する「選書」サービスを提供する。書店員が直接話をしながら選書をする予約制の有料パーソナル選書以外にも、セルフでQRコードを読み込み、LINEのチャット形式を通して今の気分や求める読後感からおすすめの本が提示される無料選書も提供している。

 Chaptersにはもう一つ、オンライン上の顔がある。それは、月3冊のみを扱うオンライン月額制書店としてのChaptersだ。毎月書店員が設定したテーマに沿って3冊の本が選ばれ、その選書が会員の自宅に届く。同時に会員同士のビデオチャット「アペロ」のチケットが付与される。同じ本を読んだ人が、感想や思いを共有しながら「アペロ」を通じて言葉を交わしていくことで距離を縮め、両者が合意すれば連絡先を交換する。選書サービスとマッチングサービスを掛け合わせた新しいサービスを通して本と人、そして人と人との出会いの場を提供する。

本がつなぐスローな恋活

市ヶ谷の実店舗の入り口看板(2025年11月7日13時45分、チャイと選書 Chapters)池内優葉撮影

 Chapters立ち上げのきっかけは森本さん自身のマッチングアプリでの経験にあるという。仕事への意欲を隠したり、おしとやかに振る舞ったりすることが出会いの定石のように感じ、息苦しさを味わっていた。マッチングアプリにときめかなくなってきたのはなぜだろう——。自身の心に向き合い続けた結果、アプリで年齢や身長、年収などの条件を通して機械的に人とマッチングする過程に「物語」が欠けていることに気付いた。ジブリ映画「耳をすませば」にある「本棚で手と手が重なる」瞬間から着想を得て、本を通した出会いに「物語」を見出したのがChaptersの始まりだという。

 森本さんは、人と出会いたいという「人間の『下心』はどれほど言い換えられるかが重要」だと語る。本にあまり親しみがない人でも気軽に始められるよう、選書のコンセプトの一つは「久しぶりの読書にちょうどいい」本だ。Chaptersの会員同士はアペロを通して設定されたトークテーマや本の内容などについて会話を重ね、両者が「連絡先を交換したい」と回答すると相手に連絡先が公開される。交際までの平均期間は約7ヶ月。「すぐ出会える」従来のマッチングアプリとは一線を画し、じっくりとその人の言葉や考えに耳を傾けながら関係を構築できることも魅力だという。

選書に注力 「書店界のイメージを変える」

 「面白い本に出会いたい」「失敗したくない」「時間を無駄にしたくない」。選書こそが、これらの様々なニーズに応えながら「新しい本との出会い」を作るというが、選書に注力する理由はそれだけではない。森本さんは選書が「粗利の低い商材である書籍で持続可能な運営をするための一手」になると考える。小さな書店がただひたすら売るには限界があるため、読者が本を選ぶ「負担」を減らしたり、一人では手に取らなかったような本へ誘ったりすることで「この人が勧めるなら読んでみようかな」と思ってもらえる存在になる。そこに価値を見出してもらえれば、新たなビジネスモデルを確立できると森本さんは話す。「これからの本との出会いは、人が作っていくんじゃないかなと思います」

 Chaptersを始めるときも、周囲に「書店は儲からない」と言われてきた。森本さんは独立書店の盛り上がりを感じながらも、今年6月に経済産業省が「書店活性化プラン」を打ち出したことなども踏まえ「(書店界が)縮小業界であるとの認識は根強い」と指摘する。今後は「稼げる書店」を確立し、「書店はまだまだこんなにやっていけると証明する」ことを目指すという。

客と作る本棚 「全部揃えない」魅力

本棚の上に佇む蟹(2025年11月8日19時58分、蟹ブックス)池内優葉撮影

 賑やかな高円寺の商店街から一本小道に入ったところにある「蟹ブックス」。店内の壁はポップなブルーに彩られ、その一角には月毎に変わる展示コーナーが設けられている。約3000冊を抱える本棚の上には蟹のぬいぐるみや、お客さんから贈られたという本物さながらの蟹が佇む。ブックカバーやしおりにも蟹のイラストが施されているが、書店名に「蟹」を採用した理由は特にないという。「蟹ってなんかいいよね」から始まったのが蟹ブックスだ。

 12カ国・地域で翻訳されている「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(河出書房新社)の著者である花田菜々子さんが蟹ブックスを開店したのは2022年だ。その1年ほど前には、別の書店の店長を務めていた。しかし、その書店が閉店することとなり、転職か開業かの選択を迫られた。書店を開くのは「自然な選択だった」と語る花田さんは、それまでも大手書店や雑貨店で本に携わってきた。「本を売るという営みそのものが好き」だといい、お客さんが書店に足を運び、本を手に取って見る姿、変わりゆく本棚の景色に楽しさを覚えるという。

展示はおよそ月ごとに変わるという。取材時はイラストレーターの原画展(2025年11月8日19時59分、蟹ブックス)池内優葉撮影

 初めは商店街に対して「元気がない」イメージを持っていたが、高円寺の商店街は「やる気があって楽しい」。店舗が2階のため客足が遠のくかと心配したが、実際に立ち寄る人の中には古着屋さんの袋を持った人も多い。HPやSNS、花田さんの著書をきっかけに全国各地からも人が訪れるという。

客の好み 交わる魅力

 ヴィレッジバンガードやHMV&BOOKSの店長など、本に携わる数々の経験を経て蟹ブックスを立ち上げた花田さんは「大型書店より独立系書店の方が元気な印象」と語る。これまで大型書店の取り柄だった品揃えの良さはネット書店にカバーされ「ネットでも買える」と言われてしまう。一方独立書店は「全部揃ってない」ところにこそ魅力があるという。

取材に応える蟹ブックス書店主の花田菜々子さん(2025年11月8日20時48分、蟹ブックス)池内優葉撮影

 本の仕入れは主に花田さんが担当する。お客さんに本を手渡す中で売れ行きの良い本の傾向を掴み、次の仕入れに反映させる。「書店主とお客さんの好みが合わさって本棚ができていく」過程に面白さと独立書店ならではの魅力が詰まっている。ワクワクするものをいつも揃えておくことを意識しつつも、やはり「本の好みが合わない人には好きになってもらえない」。そういう方には別の書店を楽しんでもらえればいい。そんな「少し気楽な心」を持ち合わせることも重要なのかもしれないという。

 閉店後に開催されるイベントも蟹ブックスの特色の一つだ。これまで作家との交流会やトークイベントなどを開いてきた。とはいえ、蟹ブックスの佇まいは伝統的な「書店」。カフェやセレクトショップ等を併設することで収入源を確保しつつ差別化を図る独立書店が主流になりつつある中、このシンプルな形を維持できるのは、カウンターに立ちながらも書評や著書の執筆をするなどの仕事ができるからだという。大型書店時代に感じた「業界を発展させなくてはならない」というプレッシャーから解放され、イベントでも自身の「面白そう!」という好奇心を優先できていると花田さんは話す。

「偶然の出会い」売る本のテーマパーク

文喫入場時に受け取るバッジ 会員資格や利用時間帯に応じて色分けされている(2025年11月21日18時43分、文喫六本木)池内優葉撮影

 平日2,750円、土日祝日3,630円の入場料を支払い、利用時間や会員資格に応じて色が分かれたバッジを受け取ると目の前には約3万冊の本が広がる。本棚のエリアを少し離れると、カフェのような作業スペースが広がる。店内の本は全て、それらのスペースで読み放題だ。窓際にはクッションに寝そべることができる開放的な席やソファもあり、好みの姿勢で本を楽しめる空間となっている。まるで本のテーマパークだ。

 1980年から長く親しまれてきた書店「青山ブックセンター六本木店」の跡地に「文喫 六本木」が登場したのは2018年のことだ。書店を残していくことを意識し、大手取次の子会社である株式会社ひらくが手がけた。「本と出会うため」の書店をコンセプトに掲げ、これまで青山ブックセンターに足を運んでいた読書好きに限らず、「間口を広げる」ことで読書人口を増やすことを目指しているという。

 店長の深井航さんは、大型書店が在庫検索のシステム等を発展させ、目当ての本がある「目的買い」に対する満足度上昇や便利さに取り組んできた一方、文喫は「自分一人では出会えなかった本」との偶然の出会いや読書体験そのものを売っていると話す。

取材に応える文喫六本木の深井店長(2025年11月13日17時19分、文喫六本木)池内優葉撮影

持続可能な経営 書店界に先駆け

 書店経営の難しさは、粗利の低さや昨今の雑誌の売り上げ低迷、定価販売を義務付ける「再販売価格維持制度」などにあると言われてきた。この問題を解決するために編み出されたのが、入場料制の書店「文喫」だという。売り場のスペースが狭くなればなるほど「売れる本」に偏ってしまうという問題も、入場料制を設けることによって解決に近付く。深井さんは「売り上げを気にすることなく、尖った趣味の本も揃えることができる」という。

「棚の文脈」を意識した本棚。本の並びにも意味がある(2025年11月13日17時24分、文喫六本木)池内優葉撮影

 文喫は「書店」でありながらも、その場で手に取って読める図書館のような気軽さも兼ね備える。通常書店では、売れなかった本を出版元に返すことができる返本制度を利用しており、店頭に並ぶ書籍は全て借り物のため、その場で長時間手に取って読むことは推奨されない。しかし文喫では全ての書籍を買い切っているため、購入の意思に関わらず店内でじっくり読むことができるという仕組みだ。気に入った本はもちろんその場で購入できる。出版文化の維持に貢献しつつ、書籍の売り上げ低下が問題視される中でも読者に気軽な本との出会いを提供している。

本屋なき街に灯を 個人開業後押し

 2024年10月にスタートした「HONYAL(ホンヤル)」は、書店開業時に本の仕入れに必要な条件を緩和することで個人などが小規模な書店を始めやすくするパッケージだ。従来の条件には商額が月100万円以上であることや保証金や保証人の確保などがあり、個人開業のハードルは高いとされていた。事業規模の基準を30万円まで引き下げ、保証人や保証金を不要とする代わりに売れ残った書籍を返本できる割合を無制限から15%に抑えたHONYALは、2025年11月16日現在で62件の契約が成立し、43件の書店開業に活用されている。

 「HONYAL」の企画背景には、止まらない書店数減少がある。1996年にピークを迎えた全国の書店数は減少に歯止めがかからず、2014年からの10年間では約30%減少。さらに、書店がない「無書店自治体」も増加しており、トーハン書店事業本部でHONYALを担当する関輝当さんは書店が減少する現状を「深刻な状態」だと話す。地方を中心に相次ぐ大型書店の閉店の流れに逆らうように、書店を開きたい個人を支援することで人と本とのタッチポイントを増やすことが現状打開への鍵になるとみている。

取材に応えるトーハンの野村栄司さん(左)と関輝当さん(2025年11月12日16時5分、株式会社トーハン)池内優葉撮影

 関さんは今後の書店の在り方について、「最近はSNS等を通して独立書店が個性をアピールできるようになったため、大型書店でなくとも立地に左右されず集客できるようになった。一方、『大型書店で』幅広い品揃えを楽しみたい人も根強く残っている」と指摘する。今後は書店の好みが二極化していくとみている。

本を「つかう」ビジネス 本の周り楽しく

2025年10月より実証実験が開始した「物語の自動販売機」(トーハンHPより)

 トーハンでは書店に本を卸す取次会社としてのノウハウを活かし、「本のイメージを活かした空間演出」にも取り組んでいる。ホテルの一角にライブラリーを設置したり、オフィスの壁一面に本を並べ「十人十色」を表現したりと本を「つかう」ことで空間のコンセプトを表現する。リアル空間での「人と本とのタッチポイントを増やす」ことを重要視しているため、「HONYALではネット書店のみを開きたいという相談は全て断っている」。粗利が低い書籍を商材にする以上、本だけでは安定した経営には困難が伴う。HONYALを利用した43件の開業店舗は、ほとんどが他業種との複合店舗となっている。本と一緒に骨董品、生花を販売するなど様々な形態がある。同じくトーハン書店事業本部で空間プロデュース事業を手がける野村栄司さんは「本のある空間」を増やし、生活の中に自然と組み込むことは一つのソリューションになり得るという。

 「人と本とのタッチポイントを増やす」トーハンの取り組みとして、2025年10月から実証実験を開始した「物語の自動販売機」もある。「自販機」の特長を活かし、物語の冒頭やその地ゆかりの作品の一部、またイベント・企画等に関連する文章をその場で印刷するものだ。3~5分程度で読める文章を無料で印刷するという。手軽に楽しめる自販機を通して、その物語や活字に興味を持ってもらう狙いだ。

【訂正履歴】2月16日に公開した段階では、「トーハン書店事業事業本部」と記述しておりましたが、正しくは「トーハン書店事業本部」です。また、「物語の自動販売機」実証実験開始を「今年10月」としておりましたが正しくは「2025年10月」です。また、写真キャプションで社名を「TOHAN」としておりましたが、正しい社名はカタカナの「トーハン」です。いずれも訂正いたします(2026年2月22日)