罪を犯した「普通の人」と向き合う保護司「生きづらさを抱える人」支え
同じ社会の住民ができることは

 保護司は、刑務所や少年院から仮釈放・仮退院となった人や、保護観察付き執行猶予となった人を対象に、月に2、3回の面接を重ね、再び罪を犯すことのないよう、立ち直りを支えるボランティアだ。向き合う相手に注ぐ目線は「生きづらさを抱えた普通の人」。彼らの社会復帰を、同じ社会の住民として支えたい。保護司たちはそんな思いで更生保護に携わっている。

「ひとりじゃないよ」孤立防ぐ

 「対象者との面接で、怖いと思ったことはない。普通の人ばかり」。そう微笑むのは、板橋区で保護司を務める清水淑子(しみず・としこ)さん(63)だ。15年前、地域の青少年健全育成活動への参加経験や、実母が保護司であったことを機に保護司会会長に誘われ、保護司となった。以来、罪を犯した過去を持つ人たちと、先入観を持たずに対話を重ねてきた。

笑顔で話す保護司の清水淑子さん(2025年10月22日20時3分、板橋区保護司会更生保護サポートセンター)松本東子撮影

 面接では彼らの日々の生活の様子を聞き出し、寄り添う。悩み事は一緒になって悩む。「一緒に更生して、社会で生きていこう」と伝え、対象者の孤立を防ぐ。対象者の中には約束を守れない、連絡が取れない、という人も多く、骨が折れる。それでも清水さんが保護司を続ける理由の一つに、数年前に財布を盗んで保護観察対象となった男子高校生のことがある。進学校に通う彼は、先輩にそそのかされたことを機に初めて窃盗に及び、その後、犯行を繰り返していた。清水さんと出会い、面接を重ねるようになる。そして保護観察中に、道に落ちていた財布を盗まずに交番に届けることができた、と報告してくれた。再犯を繰り返してしまう対象者が多い中、彼の成長が嬉しかった。

 一方で、保護司の活動をめぐっては、高齢化が進んでいることが重い課題としてのしかかる。全国保護司連盟によると、保護司の平均年齢は全国で65.4歳、板橋区保護司会は67歳だ。若返りを目指す必要があるが、保護司の活動に必須の研修は平日の日中のみで、更生保護について学ぶ勉強会やイベント等も平日の開催が多いことも、現役世代の活躍を難しくする一因だ。

 「保護司はただの“町のおじさんおばさん”だから」。プロでも専門家でもない保護司ができることは、社会で孤立してしまう対象者の話を聞き、「一人じゃない」「話を聞いてくれる人も世の中にいるんだ」と感じてもらうことだ、と清水さんは訴える。面接の前後に挨拶をする礼儀正しい対象者も多く、「本当に、普通の人ばかり」と清水さんは念を押すように話す。同じ社会の住民として、「そういう人(過去に罪を犯した人)達もいて、社会はできている。彼らを受け入れられる社会にしたい」。その思いを胸に、今日も清水さんは対象者と対話を重ねる。

保護司一人ではなく、多くの人で更生の支えに

 「正直、怖かったです」。小林多恵子さん(67)は、保護司を始めた頃を振り返り、困惑気味に微笑んだ。小林さんが保護司を務める滋賀県では24年5月、大津市の保護司であった新庄博志さん(当時60歳)が保護対象者の男性に殺害された。事件の直前に保護司になることが決まっていた小林さんは、家族からの猛反対を受けた。だが、「やってみないと分からないこともある」と決意。先輩保護司と二人態勢で、対象者との和気あいあいとした面接を重ねるうちに、今では恐怖心は無くなった。

取材に答える小林多恵子さん(左から3人目)、小川隆史さん(一番右)、青柳久美子さん(左から2人目)、彦根保護区保護司会のメンバー(2025年10月29日12時20分、オンライン)松本東子撮影

 以前は、保護司が対象者に一人で向き合うことが主だった。事件後、要望に合わせて複数の保護司で、また自宅ではなく公共の場での面接ができるよう、保護司の安全を考慮した態勢が整えられた。小林さんと同じ彦根保護区の保護司、小川隆史さん(64)は、保護対象者の更生を「支える側は一人じゃない。皆で支える仕組みが大切」と述べる。そのうえで、「更生しようとする人に寄り添うことが生きがい。新庄さんの事件後も、その思いは変わらない」と表情を引き締めた。
 やはり彦根保護区の保護司、青柳久美子さん(67)は「本当に残念」と表情を曇らせた。「事件があったからこそできることがある。新庄さんの遺志を継いで、ネットワークを作り上げたい」。生前の新庄さんは、「滋賀KANAMEプロジェクト」を立ち上げた。保護司を補助するため、教育や福祉などの職種が連携し、観察対象者の立ち直り支援を目指す取り組みだ。青柳さんも事務局メンバーとして加わっており、事件前日も半日以上新庄さんと話していた。「立ち直ろうと必死に努力している対象者が、事件の犯人と同じような目で見られたらいけない」という、事件直後の保護司としての思いを語った。

肩書で判断しないで、復帰できる社会に

 「矛盾の中で生きている」。早稲田大学19号館内にある更生保護施設「更新会」で常務理事を務める山田憲児(やまだ・けんじ)さん(77)は、そう語り、遠くを見つめてしばらく黙り込んだ。更生保護施設とは、過去に犯罪歴があり、出所・出院した人、保護観察中の人の中で帰る場所がない人に向け、一定期間、食事や宿泊場所を提供して自立更生を促す施設だ。

更生保護への思いを語る山田憲児さん(2025年11月6日10時8分、早稲田更新会)松本東子撮影

 山田さんの「矛盾」は、更新会の被保護者を受け入れる態勢と、自身の更生保護への思いのずれを指す。更新会が受け入れている被保護者は、法務省から受け入れを要請された全員ではなく、受け入れるのはそのうちの2割。残りの8割は受け入れを断っている。受け入れの可否を決める更生保護施設職員の多数決で、刑務所での規律違反が多い、酒癖が悪い、等の特徴がある人の受け入れを拒否する職員が多いためだ。被保護者が社会に居場所がないと感じ、行き場を失ってしまうと、再び刑務所に入るため、再犯してしまう。結果的に再犯可能性の低い人だけを受け入れる傾向になっていることに対し、再犯可能性が高い「処遇困難者こそ受け入れ、更生の支援をするべき」と考える山田さんは理事として「この矛盾のなかで生きている」という。

 経営面での困難も影響する。更生保護施設の運営資金となる、法務省の更生保護施設に対する委託費について、全国の施設で想定を上回る利用が生じた。その結果、2025年度の当初予算額を超える利用申請が相次ぎ、委託費が当初予算に対して2億6000万円以上不足することが一時は見込まれた。更新会にもその波が及ぶ。本来、社会復帰に向けて最大6カ月の入所が想定されているが、実際には平均1・2カ月程度しか受け入れられていない。法務省からの委託費が不足し、対象者一人当たりに充てられる予算が限られていることが、十分な更生期間を確保できない要因となっている。「安定的な資金の確保が一番難しい」と山田さんは嘆く。法務省によると、12月に補正予算で更生保護施設委託費に2億4000万円の追加が決まったが、施設を支える資金はこのように予断を許さない状況が続く。

 更新会で生活する被保護者の多くが、出所後に住まいを確保することが難しいという問題もある。住居の契約をする際、現住所として更新会の住所を記入すると、「前科がある者」という事実が判明するため、借りられないケースも多い。

 更生保護施設に入所しても、社会での生活が難しい現状がある。肩書で人を判断する社会の風潮に、その社会構造に、山田さんは苦言を呈す。罪名を見て先入観で判断するのではなく、「その人はどういう生き方をしてきたのか」、成育歴から相手を見るという。罪の背景にある、彼らが抱える苦しみや問題に迫り、支援をする。「被保護者は、生きづらさを抱えた、ごく普通の人」なのだ、と。

 更新会では月に二度、社会で生きていくために必要なコミュニケーション等を学ぶ、SSTというイベントが開催される。ソーシャルワーカーの講師を招き、入所者たちが日常生活でのトラブルへの対処法を考え、話し合う。11月のはじめの回では、過去の入所者も複数名参加しており、計11名がテーマをもとに話し合った。入所者が積極的に発言する様子も見られ、時々笑いも起こる。4名の学生も参加しており、入所者からは「学生の意見からは、自分では思いつかない、考えないようなことを学べる」という声が聞こえた。