
JR予土線(愛媛県宇和島駅~高知県窪川駅)は昨年3月のダイヤ改正に伴い、各駅での発着時刻が大幅に変更され、往復2便が減便となった。これを受け、沿線の愛媛県立北宇和高校では授業終了後の列車が2時間後になってしまうため、その前の便を使えるよう下校時刻を20分繰り上げる時間割変更が余儀なくされた。JR四国は乗務員不足などを背景に、鉄道の安定運行を確保するための見直しだったと説明する一方で、兵頭誠亀・鬼北町長は「ヘビーユーザーである高校生のことを考えてダイヤを組んでもらいたい」と述べ、JR 側のダイヤ改正を一方的だとして不満を示した。(内容は2025年11月〜2026年3月の取材に基づく)
「これ以上の変更はできない」
可能な限り削った時間割

JR 予土線は宇和島駅(愛媛県)と窪川駅(高知県)を結ぶ、いわゆるローカル線。沿線には四万十川も流れ、風光明媚な路線として観光客に人気がある。しかし生活利用者は車の使えない学生や高齢者などに限られており、長年にわたって赤字が続いてきた。2024年度の報告では、100円の営業収入を得るために1,329円の営業費用がかかっており、JR 四国内では一番の赤字路線となっている。昨年3月、列車の発車時間を毎時同じようにそろえてわかりやすくする「パターンダイヤ」が導入されたが、それに伴い往復2便が減少した。
「ダイヤ改正について発表されたときは驚きました。片道40分かけて自転車通学をしようかと考えたほどです」。そう話すのは予土線に乗って通学している北宇和高校2年生の田中大地さんだ。最寄りの務田(むでん)駅から高校がある近永(ちかなが)駅まで乗車している。ダイヤ改正によって問題となるのは帰宅の便だった。従来は15時40分に授業が終了し、16時46分の宇和島行きで下校していた。しかしダイヤ改正によって16時台の便が無くなり、17時31分までの約2時間も待たなければならなくなってしまった。「(高校が)時間割を変更してくれると聞いてホッとしました」。同校はダイヤ改正が実施される2日前の昨年3月13日に、「新学期からの時程変更について」というお知らせでその旨を発表した。

このような対応は今回が初めてだったと、同校の平野宗義校長は話す。「本校では246名の生徒のうち100名程が宇和島方面から予土線で通学しています。これらの生徒に2時間も列車を待たせるのは厳しいということで、やむを得ず時間割を変更しました」。具体的には、15時30分に発車する1便前の列車に間に合うよう、下校時刻を以前より20分早めて15時20分に変更。20分の時間短縮にあたっては、朝のショートホームルームを20分から10分に短縮したほか、ショートホームルームと1限の間の移動時間、昼休み後の清掃と5限の間の時間をそれぞれ5分ずつ削り、捻出した。定められた授業時間や休憩時間を確保できているという。平野校長は変更について「今のところ苦情は来ていないが、ゆとりの部分が減ったことで生徒や先生方には負担をかけてしまっている。もうこれ以上の時間割変更はできないと思う」と説明。仮の話としたうえで、これ以上減便した場合は自治体でスクールバスを共同運行することなどが考えられるとも話した。生徒側の反応として、田中さんは「当初は体育の着替え時間が短くなり大変だったが、今では慣れてきた」と話し、影響は変更後の短い期間にとどまったとみられる。
乗務員不足でやむなくダイヤ見直し
JR、相談は始業時間影響校に
今回のダイヤ改正についてJR 四国の運輸部運輸課の井上剛副長、総合企画本部の松⽥夏城副長は、乗務員不足などを背景に鉄道運行を安定させるために実施したものだと説明する。列車を運転する乗務員の確保は2023年度後半から厳しい状況となっており、このまま対策を取らなければ日々の列車運行に支障が出る恐れがあった。場合によっては「1週間後の列車の乗務員を確保できないため運休する」といった告知をせざるを得ない事態も想定されていたという。
一方、今回のダイヤ改正で北宇和高校が時間割の変更を余儀なくされたことについては、「沿線の高校に通う生徒は非常に大切な利用者だ」としたうえで、同校は始業時間に影響が出ず通学自体ができなくなる状況にはならないと判断したと説明した。このため学校への直接説明は行わず、県教育委員会を通じて事前に情報を伝えるにとどまったという。他の、始業時間に影響が出る学校については、ダイヤ改正の考え方を説明したうえで始業時間の調整が可能かどうか相談するなどの対応を行ったとしている。「地域との連携は重要だと考えており、今後も沿線自治体と情報共有を図りながら鉄道の維持に取り組みたい」と述べた。
町の存続にも関わる問題
「JRは沿線自治体に十分相談を」
結果的にダイヤ改正による生徒への影響は高校側の工夫で最小限に抑えられた一方で、兵頭町長は、今回の問題はJR 四国が地域への配慮を欠いた点にあったと強調する。「ダイヤ改正を勝手にするというのは都会では普通かもしれないが、うちにとってはヘビーユーザーである高校生がこれほど影響を受ける。次にダイヤ改正をする時は事前に沿線自治体にも相談してほしいとJR 四国にお願いをした。」兵頭町長によると、ダイヤ改正に関する報告を受けてから、宇和島市長と松野町長とともにJR 四国へ再考を求めたものの、すでに決定事項であるとして受け入れられなかったという。兵頭町長はこの対応に強い不満を抱き、国土交通省の鉄道局長を訪ね今回の問題を訴えていた。

県立高校のために町が積極的に動いた背景には、「予土線・高校・街中を三位一体で守ることが町の存続につながる」という兵頭町長の理念がある。列車利用者の多くを占める北宇和高校が弱れば予土線の存続は一層厳しくなる。さらに予土線が無くなれば、駅周辺の街中エリアの活力も失われる。三つの要素は相互に支え合う関係にあり、いずれかが欠ければ町全体の衰退につながりかねないという認識だ。
こうした考えのもと、町はこれまでこの三本柱の維持に取り組んできた。北宇和高校は5年前まで競争率が0.5前後と「学校存続の基準を満たせるかどうか、ぎりぎりの状況だった」と兵頭町長は話す。そこで町は高校魅力化プロジェクトを進め、新たな寮の建設や特色である馬術部への支援を強化した。寮はあえて学校敷地内ではなく街中エリアに整備し、地域の活性化にもつなげた。その結果、同校の競争率は現在0.8〜1.0にまで回復したと言う。
こうした経緯を踏まえると、今回のダイヤ改正は、三本柱の一つである予土線が揺らぎ、学校側が時間割変更を余儀なくされるほどの影響が出た点で、町長にとって看過できないサインだったといえる。「北宇和高校を守ることは、予土線を守ることにもつながる」。町長はそう語り、高校と鉄道、そして街中を一体として維持する必要性を重ねて強調した。
列車ない時間帯も利用可能に
鉄道とバスの共存探る
一方、公共交通の維持という観点では、鉄道とバスを組み合わせた取り組みが予土線でも進んでいる。鉄道とバスのどちらかの乗車券や定期券があれば、両方に乗れる「モーダルミックス」の実証実験がそれだ。便数の少ない地域で公共交通の利便性を高める狙いがあり、昨年は予土線の愛媛県側で実施。沿線でバスを運行する宇和島自動車、愛媛県、JR 四国が連携している。
北宇和高校でも、このサービスを利用して登下校する生徒は多いという。通常の登下校や部活動の終了時刻は列車に合わせているが、予定がずれた際には、列車より先に来るバスを選ぶケースがあると平野校長は説明する。
生徒の受け止めもさまざまだ。夏休みの部活帰りに利用したという田中さんは「列車を待たずに済んで便利だった」と評価する。一方で、予土線から予讃線に乗り換えて帰宅する同校一年生の西村光史さんは、多くの生徒が利用している点を評価しつつ「バスを使っても宇和島駅で結局列車を待つことになる。接続を考えたダイヤでないため、乗り換える生徒には使いづらい」と指摘する。また「バスと列車では輸送力が違うため、完全にバスで代替するのは難しい。今のように両者が共存する形が望ましい」とも話した。