所沢のシニアが挑む未来型エネルギー

助成の壁に直面
複数官庁省の狭間で

 「ゼロカーボンを実現するには、自治体がソーラーシェアリングの普及も主導すべきだ」。そう訴えるのは、一般社団法人所沢市民ソーラーの代表理事、品川昭さん(81)だ。ソーラーシェアリングとは、農業を行っている農地に高さのあるソーラーパネルを設置し、作物が使い切れない太陽光を発電に活用する仕組みだ。品川代表は定年退職後、地域の仲間とともにソーラーシェアリング事業に挑戦し、所沢市内で活動してきた。しかし2つ目の発電所の設置では、高いコストが壁となった。助成金を得ようと、市に地域内でエネルギーを自給する仕組みづくりを提案したものの、発電所の設置費用がまかなえなかった。これについて専門家は、ソーラーシェアリングが複数省庁にまたがる制度の狭間に置かれ、国の後押しが弱いことが背景にあると指摘する。

農地転用許可の壁

所沢市民ソーラーの第1発電所(2025年7月30日午前10時、埼玉県所沢市下富の山宇農園)白澤佑奈撮影

 林を抜けると、木々に囲まれるように民家と畑が現れる。畑の上にはソーラーパネルが104枚並ぶ。ここが、所沢市民ソーラーの第1発電所だ。有機農家の山﨑伸一さん(62)の畑の地上権とソーラーパネルの柱部分の土地を借りて設置されている。
東日本大震災をきっかけに原発や化石燃料に頼らない発電が必要だと感じた品川代表は、長年住んでいた所沢でそれを実践しようと、2013年に地域の仲間を集めて「所沢・自然エネルギー普及研究会」を設立した。研究を進める中で、「農地を守りながら電気もつくる」ソーラーシェアリングに可能性を見出し自分たちの手で実現しようと事業に踏み出した。

 所沢市が開講する市民の学習の場「所沢市民大学」の縁で、研究会のメンバーが知り合ったのが農家の山﨑さんだ。山﨑さんは山わさびの栽培に頭を悩ませていた。所沢は山わさびの栽培可能地域の南限だが、近年の暑さで生育に問題があったという。適度に日陰を作ることのできるソーラーシェアリングに関心を持っていた。

ソーラー設備を紹介する品川昭さん(2025年7月30日午前10時、埼玉県所沢市下富の山宇農園)白澤佑奈撮影

 設置場所が決まってから所沢市民ソーラーが苦労したのは、農地を他の用途に転換するため必要な農地転用の許可を得ることだった。柱部分の土地は農地から転用する必要があるが、そのためには、農地法に基づき、ソーラーシェアリングを行う畑での収量が「2割以上減らないこと」を証明する必要がある。先行研究のデータがなかった山わさびは、類似作物の資料を示して、なんとか許可を取得した。そして2019年に通電が開始された。山﨑さんは「所沢市民ソーラーの人たちが動いてくれたから実現できた。個人の農家が自分で申請をするのは難しい」と話し、なかなか他の農家には勧めにくいのが現状だという。

 このソーラーシェアリングが第1発電所となった。ところが2023年2月、農林水産省の研究会で、実際に設置されたソーラーシェアリングのうち、全体の18%で農業への支障が生じているというデータが課題として示された。茨城県つくば市や徳島県三好市の農業委員会からは、農業が疎かになっている不適切な事例への対応に苦慮しているという報告もあった。そこで同省は2024年4月、新たなガイドラインを施行した。改定では、地域計画の区域内で事業を行う場合には、協議の場で合意を得ることが必須となるなど、複数の項目で規制が強化された。荒廃農地を再生して活用する事例についても、収量が2割以上減らないことを証明し報告する義務が課される。こうした規制強化には一定の必要性がある一方、市民団体や個人農家にとって導入のハードルは一段と高くなってしまった。

第2発電所は頓挫 「市民の情熱に理解を」

所沢市民ソーラーは第1発電所を設置できたものの、第2発電所の計画は実現には至っていない。
 2021年、同団体はソーラーシェアリングをやってみたいという新たな農家と出会い、第2発電所の設置計画は順調に進んでいた。しかし、電柱の新設に伴って数百万円の費用がかかることや、将来的に敷地上へ道路が敷設される可能性があるなどリスクが大きく、計画は頓挫した。

第2発電所の設置について話す品川昭さん(2025年11月1日午前10時、埼玉県所沢市の生涯学習推進センター)白澤佑奈撮影

 打開策として、発電した電気を所沢市の新電力会社・ところざわ未来電力に売り、市内消費によって得られる助成金を活用する案が浮上した。ところざわ未来電力は市が資本金の半分以上を出資する、再エネの地産地消を目指す事業体だ。ところが、提示された取引価格では採算に合わず、断念せざるをえなかった。

 品川代表は、所沢市が環境保護や脱炭素を掲げ再エネ推進もうたう「マチごとエコタウン推進計画」をもっと具体的にするよう求めている。民間企業に任せきりにするのではなく、公共の補助金などを利用した太陽光発電設備の建設推進、地域ぐるみのソーラーシェアリング事業の計画推進、さらに、公共施設の屋根や駐車場に太陽光発電装備を設置することが必要だと市へ訴えたが、市の理解は得られなかった。「大手企業に任せるだけでなく、自治体が資本計画をつくり主導すべきだ」とし、市の姿勢を「笛吹けども踊らず」と批判した。

 これに対し、所沢市環境クリーン部マチごとエネルギー推進課の担当者は、「安全面や農業への影響などのリスクが残るソーラーシェアリングに、市税を使って積極的に投資するのは難しい」と語る。この担当者は課の見解を代弁したという理由で、個人名の掲載は拒んだ。

制度の「狭間」に置かれる

 自然エネルギーの導入策に詳しい、NPO法人環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員は、所沢市について「気候市民会議が行われていたり、カーボンニュートラルに向けた取り組みが示されていたりと他の自治体と比べて、温暖化対策が進んでいる」と評価する。一方でソーラーシェアリングが進まない要因については「複数省庁の管轄が絡み、国の対応が弱いことが最大の要因だ」と指摘する。制度の狭間が生じていることで、自治体が動きにくくなっているという。ソーラーシェアリングは、農業は農林水産省、環境保全は環境省、エネルギー産業は経済産業省が所管し、縦割り構造の中に置かれている。実務は農水省内の部署が行うため、環境省の権限は及ばず、農業の視点に偏りやすいことも課題とされる。

国の制度について説明する山下紀明主任研究員(2025年11月19日午前11時、オンライン)白澤佑奈撮影

 一方で、ドイツやフランスなどでは、国の制度上にソーラーシェアリングのカテゴリーが設けられ、政策支援も明確になっている。だが、日本で制度が整備されていないからと手をこまねいているべきではないと山下研究員は指摘する。
「制度と現場は螺旋状に発展する。制度が整うのを待つだけでなく、粘り強く取り組みを続けることが重要だ」。大手企業や生協と連携して事業を進める個人事業主など、地域に合わせた大規模事業を展開できる主体はコストの壁が比較的低い。メガソーラー問題によって抱かれがちな太陽光発電へのネガティブなイメージを払拭するためにも、こうした担い手が普及の先頭に立って普及に挑む意義は大きいという。

 ソーラーシェアリングの安全性や有害物質に関する懸念についても「ビニールハウスや身の回りにある家電と大きく変わらない」と説明する。収量も8割以上が確保され、近年の強い日差しを和らげる効果も期待できる。「広い土地を農業だけ、発電だけに使うのはもったいない」。山下研究員は、農業とエネルギーを両立させる価値を強調した。